発達障害・自閉症の子の繰り返し行動への対応法|家庭でできる実践支援ガイド

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発達障害や自閉症の子が同じことを何度も言うときの正しい向き合い方

お子さんが、「ねえ、今日何曜日?」「明日、○○に行く?」と何度も同じことを聞いてくる…
最初は笑顔で答えていても、正直「もう何回目?」と疲れてしまうこと、ありますよね。

実はこの“繰り返し会話”は、単なる口癖や癖ではなく、発達特性や心理的な背景が関係しているケースが少なくありません。
特に自閉症スペクトラム(ASD)や発達障害のあるお子さんでは、安心感を得るため、頭の中の情報を整理するために、同じ言葉を繰り返すことがよくあります。

ただ、ここで大事なのは、「しつこいからやめさせる」ではなく、「どうしてその行動が必要なのか」を理解することです。
行動の背景を知ることで、必要な支援や声かけが変わってきます。

よくある“繰り返し会話”のパターンと発達特性の関係

繰り返し会話には、いくつかのパターンがあります。

  • 質問タイプ:「今日は誰が来るの?」「明日も公園行く?」など、予定や状況を確認する
    安心感を得たい、予測可能性を高めたいという気持ちが背景にあります。
  • エコラリア(反響言語)タイプ:テレビや人の言葉をそのまま繰り返す
    → 言葉の響きやリズムを楽しんだり、会話の練習として模倣している場合も。
  • こだわり会話タイプ:興味のあるテーマを延々と話し続ける
    → 特定の興味や知識を繰り返し共有することで喜びや達成感を感じていることがあります。
  • 確認タイプ:同じことを再度尋ねて、答えが変わらないかを確かめる
    不安や疑いを解消したいときによく見られます。

こうして見ると、「繰り返し会話=悪いこと」ではなく、お子さんなりの目的や意味がある行動だと分かりますよね。

ただの癖との見分け方

もちろん、すべてが発達特性によるものとは限りません。
一時的な癖や、単純にお気に入りのフレーズを言っているだけのこともあります。

見分けのヒントは、このあたりです。

  1. 頻度や期間
     短期間で自然に減っていく場合は、発達特性というより“マイブーム”の可能性が高め。
  2. 場面や相手による変化
     特定の人や状況でだけ繰り返すなら、その環境に安心や楽しさがあるサインかもしれません。
  3. 本人の反応
     繰り返すことで落ち着いた表情になる場合は、自己調整の役割を果たしている可能性大。
  4. 生活への影響度
     会話が一方的すぎて相手とのやりとりが成立しない、学校生活や友達関係に影響している場合は、支援や対応を検討するサインです。

こうした視点で見てみると、繰り返し会話は「困った行動」ではなく、子どもからの大事なメッセージであることが分かります。
大切なのは、「やめさせる」のではなく、どう受け止めて、どう支援するかを考えることです。

なぜ同じことを繰り返すの?発達障害・自閉症の子に多い5つの理由

お子さんが同じ質問や同じ言葉を繰り返すとき、「なんでそんなに何度も聞くの?」とつい不思議に思いますよね。
実はこの“繰り返し”には、子どもなりの理由や目的がちゃんと隠れています。ここでは、発達障害や自閉症のあるお子さんによく見られる5つの理由をご紹介します。

1. 安心感・予測可能性を求めている

発達特性のある子は、予定や流れが変わると不安になりやすい傾向があります。
同じ質問を繰り返すのは、「自分の中で未来をはっきりイメージしたい」「予想外のことが起きないように確認したい」という気持ちの表れです。

たとえば「明日も公園行く?」と何度も聞くのは、予定を確認して安心するため。
この場合、予定表やカレンダーに書いてあげると、口頭での繰り返しが減ることもあります

2. 情報の確認や記憶の定着

新しい情報を覚えるのが苦手なお子さんは、何度も聞くことで記憶に残そうとしていることがあります。
これは大人でも、英単語や電話番号を繰り返し口にして覚えるのと似ています。

繰り返すたびに頭の中で情報を整理しているので、「また同じこと聞いて…」ではなく「覚えるための作業中なんだな」と受け止めることが大切です。

3. 言葉の響き・リズムが心地いい

特定のフレーズや言葉を繰り返すと、耳や口の感覚が心地よく感じられることがあります。
これは「エコラリア(反響言語)」とも呼ばれ、自閉症のある子によく見られる特徴のひとつです。

好きな歌を口ずさんで気分が上がるのと同じで、言葉そのものが“お気に入りの音楽”のような役割を果たしています。

4. 不安や緊張の解消(自己刺激行動)

緊張しているときや落ち着かないときに、繰り返し言葉を発することで気持ちを安定させることがあります。
これは「自己刺激行動(セルフスティミュレーション)」の一種で、爪をいじったり、手をパタパタさせるのと同じ自己調整の方法です。

大人が「深呼吸」で気持ちを落ち着けるように、お子さんにとっては“繰り返し言葉”が深呼吸のような役割を持っているのです。

5. コミュニケーションスキルの発達段階

特に幼児期や言語発達がゆっくりなお子さんでは、会話のきっかけや練習として繰り返している場合があります。
例えば、好きなアニメのセリフを真似して話しかけることで、会話を始めたり、相手とのやりとりを学んでいるのです。

この場合は、ただ止めるのではなく、少しずつ新しい言葉や返事に導くことで会話の幅を広げられます


こうして見てみると、“繰り返し”は単なる癖ではなく、安心・記憶・感覚・感情調整・学習といった、子どもにとって大事な役割を果たしていることがわかります。
だからこそ、やみくもにやめさせるのではなく、理由に合わせた支援や対応が大切なんですね。

家庭でできる!繰り返し行動への発達支援・療育アイデア

繰り返し行動にはちゃんと意味がある…とはいえ、「毎日何十回も同じ質問をされる」となると、親としては体力も気力も削られますよね。
そこでここでは、家庭でできる発達支援のアイデアを5つご紹介します。どれも専門家も使う方法ですが、家でアレンジして取り入れやすい形にしています。

視覚支援で“何回まで”を見える化

発達障害や自閉症のある子は、「目で見てわかる情報」から安心感を得やすいと言われています。
たとえば「あと何回聞いていいか」を口頭で伝えるだけだと忘れてしまいますが、絵カードやカウンターなら目に見えるので理解しやすくなります。

  • 絵カード:質問1回ごとにカードを1枚減らす
  • スケジュール表:今日の予定や行動を事前に提示
  • カウンター:質問の残り回数を数字やマークで表示

特に、残り回数を“見える化”することで、子ども自身が「あと1回で終わり」と納得しやすくなるのがポイントです。

ABA(応用行動分析)で行動の原因を探る

ABA(Applied Behavior Analysis)は、行動の前後関係を観察して原因を探る方法です。
ABC分析と呼ばれるシンプルな手順で整理します。

  • A(Antecedent:きっかけ) … 繰り返し行動の直前にあった出来事
  • B(Behavior:行動) … 実際に行った繰り返し会話
  • C(Consequence:結果) … その後どうなったか(親が答えた/無視した等)

このパターンを見ていくと、「不安なときにだけ聞いている」「気を引きたいときに多い」など、行動の背景が見えてきます。
原因が分かれば、「安心できる別の方法を提案する」や「答える時間を決める」といった対策が立てやすくなります。

さらにABAでは“強化”と“消去”も活用します。

  • 強化:望ましい行動をしたときに褒める・ご褒美を与える
  • 消去:望ましくない行動に対して、反応を控えることで減らす

ただし“無視”は慎重に。逆に不安やストレスを高めてしまう場合があるので、子どもの様子をよく観察しながら行います。

TEACCHプログラムで安心できる環境づくり

TEACCH(ティーチ)プログラムは、「時間」「空間」「活動」を構造化して予測可能性を高める支援法です。
発達特性のある子は、予定や環境が見通せるだけで繰り返し行動が減ることもあります。

  • 時間の構造化:時計やタイマー、スケジュール表で見通しを持たせる
  • 空間の構造化:遊び場・勉強場所を分ける、使う道具を決まった場所に置く
  • 活動の構造化:作業の手順を順番に見える形にする

「何を、どこで、いつまでやるか」がはっきりすると、子どもの不安が減って、確認のための繰り返しも減っていくんです。

代替行動の提案で繰り返しを減らす

「同じ質問をしないで」と言うだけではなく、代わりになる行動(代替行動)を提案するのが効果的です。

  • 質問帳:気になったことはノートに書き、あとでまとめて聞く
  • 質問タイム:朝・夕方など、聞いていい時間を決める
  • メモ活用:答えを紙に書いて渡し、本人が何度も見られるようにする

これなら、繰り返す目的(安心感や確認)を満たしつつ、会話の回数は減らせるので、お互いにストレスが少なくなります。

ご褒美システムで前向きな行動を強化

人は誰でも、できたときに認められるとやる気が上がるもの。
繰り返し行動を減らせたときや、代替行動ができたときには、ご褒美システムを使って前向きな習慣にしていきましょう。

  • スタンプカード:決められた回数以内にできたら1スタンプ
  • ポイント制:ポイントがたまったら好きな遊びやおやつと交換

大事なのは、「できなかったときに罰を与える」のではなく、「できたときにしっかり褒めて報酬を与える」こと。
この肯定的なアプローチは、子どもの自信にもつながります。

この5つのアイデアは、組み合わせて使うとさらに効果的です。
例えば「視覚支援+質問タイム+ご褒美システム」のようにセットで使えば、子どもが安心しながら繰り返し行動を減らせる環境が整いやすくなります。

支援を続けるための3つのコツ

繰り返し行動への支援は、「やってすぐ結果が出る」ものではありません
むしろ、小さな変化を積み重ねていく長期戦。
途中で「これ、本当に意味あるのかな…」と思う瞬間もあるかもしれません。

でも大丈夫。
ここでご紹介する3つのコツを意識すれば、支援を無理なく、そして効果的に続けやすくなります。

1. 一貫性を保つ

支援で一番大事なのは、やり方をコロコロ変えないことです。
今日は質問に全部答えるのに、明日は「ダメ!」と拒否…これだと子どもは混乱してしまいます。

発達特性のある子は、予測できる状況のほうが安心できる傾向があります。
対応の一貫性が保たれていると、「このルールなら安心して従える」と学びやすくなるんです。

2. 家族全員で対応法を共有

お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん…誰が対応しても同じルールで動けるようにしておくことが大切です。

例えば、お母さんは「質問タイム」を導入しているのに、お父さんはいつでも答えてしまう…
これではせっかくの支援が効果を発揮しづらくなります。

家族で「こういうときはこう返す」という共通マニュアルを作っておくと、誰が関わっても一貫性が保てます。

3. 無理せず・叱らず・肯定的に

繰り返し行動は、子どもにとって安心や自己調整のための大切な手段である場合が多いです。
それを頭ごなしに叱ったり、「やめなさい!」と強く言い続けると、逆に不安やストレスが増えてしまうことも。

ポイントは、できていることに注目して褒めること。
たとえ質問回数が30回から28回に減っただけでも、「減ったね!頑張ったね!」と声をかけることで、子どものやる気と自信が育ちます。

また、親も無理をしすぎないこと。
しんどいときは支援を少し緩めたり、「今日はここまででOK」と割り切る柔軟さも大切です。

この3つを意識するだけで、支援が“親の負担”から“親子で成長を感じられる時間”に変わることがあります。
焦らず、少しずつ…が続けるコツです。

専門機関との連携でさらに効果を高める

家庭での支援はとても大事ですが、「家だけで全部やろうとすると限界がある」というのも事実です。
特に繰り返し行動が生活や学校に影響している場合、専門機関との連携を取り入れることで、より効果的で無理のない支援が可能になります。

発達支援センター・児童発達支援事業所の活用

発達支援センターや児童発達支援事業所では、発達障害や自閉症の子に特化した支援プログラムを受けられます。
たとえば、ABAやTEACCHをベースにした療育、言語訓練、ソーシャルスキルトレーニング(SST)など、専門的な知識と経験を持つスタッフが対応してくれます。

  • 発達支援センター:自治体が運営し、相談・アセスメント・家庭支援まで幅広く対応
  • 児童発達支援事業所:未就学児向けに個別または集団療育を提供

家庭でやっている支援と合わせることで、「家ではこう」「事業所ではこう」という統一感のある関わり方ができます。

専門家からのアドバイス事例

実際に専門機関を利用している家庭からは、こんな声が聞かれます。

  • 「質問回数が減った理由がわかった」
     → ABC分析で「不安なときに増える」というパターンを発見。家庭では安心できるサインを作るように変更。
  • 「親が気づかなかった得意分野が見つかった」
     → 繰り返し会話の中に、お子さんの興味や知識の広がりが見え、そこを活かした学習方法を提案してもらえた。
  • 「家族の対応が統一できた」
     → 専門家が作った対応マニュアルを共有することで、祖父母や学校の先生も同じ方法で関われるようになった。

こうしたアドバイスは、家庭だけで悩んでいると見落としがちな視点を補ってくれます。

家庭と専門機関の二本立てで支援することで、親の負担も軽くなり、お子さんにとっても安心できる一貫した環境が整います。
「少しでも楽になるなら…」という気持ちで、気軽に相談から始めてみるのも良い方法です。

まとめ|繰り返し行動は支援で改善し、子どもの安心と自信につながる

「同じことを何度も言う」という行動は、困ったクセではなく、子どもなりの意味や目的がある行動です。
安心したい、情報を整理したい、好きな言葉を楽しみたい…理由はさまざまですが、その背景を知れば、親の見方も大きく変わります。

繰り返し行動は、成長の過程で自然に減っていく場合もあれば、支援を通じてよりスムーズなコミュニケーションに変えていける場合もあります。
大切なのは、「やめさせる」のではなく、「どう活かして支えていくか」という視点です。

家庭でできる工夫(視覚支援・代替行動・ご褒美システムなど)を続けつつ、必要に応じて発達支援センターや児童発達支援事業所などの専門機関と連携すれば、より効果的で一貫した支援が可能になります。

家庭+専門機関の二本立て支援は、

  • 親の負担を減らす
  • 子どもが安心できる環境を整える
  • 成長に合わせた柔軟な対応ができる
    という大きなメリットがあります。

最終的に目指したいのは、繰り返し行動を減らすことそのものではなく、子どもが安心して自分らしく過ごせる状態をつくること
そのために、今日からできる小さな支援を、焦らずコツコツ続けていきましょう。
きっと数か月後、「そういえば最近あまり繰り返さなくなったな」と感じられる瞬間が訪れるはずです。

以上【発達障害・自閉症の子の繰り返し行動への対応法|家庭でできる実践支援ガイド】でした。

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この記事を書いた人

約30年の間に培った障害福祉分野での知識や経験を、このブログで余すことなくお伝えしていきます。
所持資格:社会福祉士・介護福祉士・介護支援専門員等

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