【前提知識】アスペルガー(ASD)の特性とは?執着の背景にあるもの
「この人じゃないと無理!」という強いこだわりの背景を理解するには、まずアスペルガー(現在はASD=自閉スペクトラム症)という発達特性について、きちんと知っておくことが大切です。
ここでは、アスペルガー症候群とは何か?どんな特性があるのか? そして、なぜ特定の人に執着しやすいのか?という部分を、やさしく・わかりやすく整理していきますね。
「アスペルガー症候群」とは?今の正式名称と定義
かつて「アスペルガー症候群」と呼ばれていたこの特性、今では医学的には「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名に統一されています。
これは、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)で、アスペルガーや高機能自閉症などをひとつの枠組みにまとめたためです。
つまり、「アスペルガー」という言葉は、現在ではあまり使われなくなっているのですが、一般的な認知度が高いため、今も日常会話やネット上では広く使われています。
アスペルガー(ASD)は、知的な遅れがなく、言葉も話せるけれど、人との関わり方やこだわりの強さに独特な傾向がある発達特性です。
アスペルガー(ASD)の主な特性と“こだわり”傾向
アスペルガー(ASD)の特性は人によってさまざまですが、主に以下のような傾向が見られます。
コミュニケーションの難しさ
表情や空気を読むのが苦手だったり、相手の気持ちを察するのが難しいことがあります。「冗談が通じない」「一方的に話してしまう」といったこともよくあります。
感覚の敏感さ・鈍さ
音・光・匂い・肌ざわりなどの刺激に対して過敏だったり、逆に気づきにくかったりします。これが日常生活のストレスにつながることも。
強いこだわりや独自のルール
予定変更が苦手だったり、「これじゃなきゃイヤ!」という強いこだわりを持っていることがあります。趣味や特定の物事に対する集中力が高いのも特徴です。
このように、アスペルガーの人たちは「安心できる決まったパターン」や「理解しやすい人・物」に安心感を抱く傾向があります。これが「執着」と呼ばれるような行動につながる場合もあるんです。
人との関係に“極端なこだわり”が生まれやすい理由とは?
アスペルガーの人たちは、相手の表情やニュアンスをくみ取るのが苦手なことが多いため、人付き合いに強い不安を抱えることがあります。
でも、そんな中で「この人はわかってくれる」「一緒にいて安心」と感じる相手に出会うと、その人に対してものすごく強い安心感や信頼を抱くんです。
つまり、「この人なら大丈夫!」という気持ちが、次第に「この人じゃなきゃ無理!」という強い依存や執着に変わっていくことがあるというわけです。
また、ASDの特性として「物事を柔軟にとらえるのが難しい」「切り替えが苦手」という傾向があるため、一度心を許した相手が他の人と話していたり、距離を置こうとすると、不安や怒りが爆発してしまうこともあります。
さらに、「好き」と「苦手」の間にグラデーションが少なく、白黒はっきり分けて考えやすいという傾向も。だから、「大好きな人」=「絶対に一緒にいたい」「他の人はいらない」という極端な感情になりやすいんです。
💡ここでおさえておきたいポイント
- 「執着」はただのワガママではなく、不安や混乱の裏返しであることが多い
- 相手への信頼が強くなると、依存や固執に発展しやすい
- “人付き合い”そのものが不安の種だからこそ、安心できる人が特別な存在になる
このように、アスペルガー(ASD)の特性を理解すると、「この人じゃないと無理!」という執着も、ただの“困った行動”ではなく、「安心したい」「混乱を避けたい」気持ちの現れなんだなと見えてきます。
【心理分析】なぜアスペルガーは「この人にだけ執着」するのか?
「この人じゃないと無理!」「あの子と話せないなら学校行かない!」——こんなふうに、特定の相手にだけ強くこだわる言動を目にして、戸惑った経験のある保護者や支援者の方も多いのではないでしょうか?
アスペルガー(ASD)の特性がある人にとっては、“人付き合いそのものが大きなストレス”になりやすいものです。だからこそ、「安心できる存在」や「心を開ける相手」が見つかると、その人にぐっと気持ちが集中しやすくなるんですね。
ここでは、アスペルガーの人が一人の相手に執着してしまう理由と、その背景にある心理メカニズムについて、具体的に見ていきましょう。
一人の相手に強くこだわる心理的メカニズム
まず大前提として、アスペルガーの人たちは、相手の気持ちや表情を読み取るのが苦手なことが多く、コミュニケーションに大きな不安や負担を感じていることがあります。
そんな中で、ある人との関係がうまくいったり、「この人は自分を理解してくれた」と感じられた経験があると、それはとても貴重で安心できるものとして記憶されるんです。
そしてその結果、以下のような心理状態に発展しやすくなります。
- 「この人だけは信じられる」
- 「この人がいないと不安」
- 「この人以外はわかってくれない」
これは決してワガママや執念ではなく、安心を得たい気持ちの裏返しなんですね。
また、アスペルガーの特性として、「白黒思考(極端な考え方)」や「柔軟な切り替えが苦手」という傾向があるため、好き・安心できる=絶対必要、苦手・不安=完全NGというふうに、物事を0か100で捉えてしまうことがよくあります。
そのため、「ちょっと苦手な人に少し慣れる」「今日は誰と話してみようかな」などといった“グラデーションのある関係づくり”が難しくなる傾向も見られます。
他人ではダメ!安心できる相手への過剰な依存とは?
執着の背景には、「その人じゃないと安心できない」という強い依存心が隠れています。
たとえば…
- 保育園で先生にしか話しかけない
- 友だちの中でも1人だけを“親友”と呼び、他の子とは関わらない
- 学校の担任の先生が変わっただけで登校を渋る
といったケース、よく聞きませんか?
これは、安心できる相手との関係が“心の拠り所”になっているからこそ起こる行動なんです。
言い換えると、「他の人にはどう関わっていいかわからない」「この人がいれば安心できるから、他の人は必要ない」という考え方が強くなっている状態です。
さらに、アスペルガーの人は“予測できる関係性”を好む傾向があるため、「この人なら、こう返してくれる」「こう言ったらこうなる」というやりとりの“型”ができてくると、それが安全で心地よいルーティンのようになるんですね。
でも、逆に言えば…
- 相手の都合で離れることに耐えられない
- 相手が他の人と仲良くしていると強く嫉妬する
- 断られただけで「嫌われた」と感じてパニックになる
というように、感情の揺れ幅がとても大きくなってしまうことも少なくありません。
このような依存が強くなると、周囲も「どう接していいかわからない」「距離を取ったら怒り出した」と感じるようになり、関係がこじれる原因にもなります。
恋愛・友情・先生など「執着する対象」の具体例と特徴
ここからは、実際によく見られる「執着の対象」とその特徴について、いくつかのパターンをご紹介します。
恋愛対象への執着
好きな人ができると、アスペルガーの人は相手との関係性の“温度感”をうまく測るのが苦手なため、
- 一日に何度もLINEを送る
- 相手の行動を逐一気にする
- 拒否されてもアプローチを続けてしまう
といった行動が、“しつこい”や“ストーカー的”に見えてしまうこともあります。
しかし本人に悪気はなく、「好きだから、関わりたい」という純粋な気持ちが強く出すぎてしまっているんです。
友情への執着
「この子だけが親友!」と一人の友だちに強く依存するケースもよく見られます。
- 他の子と遊ばれると怒る
- 常に一緒に行動したがる
- 距離を取られると「裏切られた」と感じる
など、友人関係に“独占欲”のような感情が生まれやすいのが特徴です。
先生・支援者への執着
保育士さんや担任の先生、学童の支援員さんなど、日常的に関わる“大人の安心できる存在”に強くこだわることもあります。
- 担任が変わっただけで登校を拒否
- 担任の先生以外には話さない
- 特定の職員にだけついて回る
といった行動は、「関係が変わること」への不安や混乱が強く関係していると言えます。
まとめ:執着は“困った行動”ではなく、心のサイン
- アスペルガーの執着は、安心したい・理解されたいという気持ちの表れ
- 執着する対象は、安心感・一貫性・理解のある人であることが多い
- 行動の裏には、対人関係の不安・ストレス・混乱を避けたいという防衛反応が隠れている
このように、執着は単なる“こだわり”ではなく、本人にとっては心の安定を保つための大切な手段なのです。
【要注意】執着が強すぎると起こるトラブルとリスク
「好きだから」「安心できるから」と特定の人に強くこだわる気持ちは、アスペルガー(ASD)の人にとっては“自分を保つための大切なよりどころ”になっていることが多いです。
でもその気持ちがあまりにも強くなりすぎると、本人にとっても、周囲にとってもつらい状況を引き起こしてしまうことがあります。
ここでは、執着がエスカレートするとどんな問題が起こりうるのか? そしてそれをどう受け止め、支援していけばいいのか? を一緒に考えてみましょう。
本人が抱えやすい心の問題と2次障害のリスク
執着の対象となる相手との関係がうまくいっているうちは、本人も落ち着いて生活できることが多いですが、もし何らかのきっかけで相手が離れたり、関係が崩れたりした場合——そこから一気に不安や混乱、自己否定感が高まるケースがよく見られます。
特に多いのが、以下のような心理状態や2次的な問題の発生です。
不安障害やパニック発作の発症
「○○先生じゃないとイヤ!」「あの子が無視したから、学校には行けない!」といった行動の背景には、強い不安や恐怖心が隠れていることがあります。
それが蓄積していくと、パニック発作・不安障害・過呼吸などの身体的な反応にまで発展することも。
抑うつ・無気力・引きこもり
「自分のことなんて誰もわかってくれない」「裏切られた」と感じてしまうと、自己肯定感が一気に低下し、うつ状態のような無気力さや、ひきこもり傾向が強くなってしまうこともあります。
✔ 自傷・暴言などの感情爆発
感情のコントロールが難しいタイプのASDの人にとって、関係が壊れた時のショックはとても大きなものです。
その結果、壁を叩く、髪を引っ張る、大声で叫ぶ、暴言を吐くなど、激しい感情表出が見られるケースもあります。
家族や学校でのトラブル事例と注意ポイント
執着が強くなってくると、本人だけでなく周囲の人たちも戸惑いやストレスを感じるようになっていきます。
よくある具体的なトラブル例と、それに対する注意点を見てみましょう。
家庭内でのケース
- きょうだいよりも親への依存が極端に強く、他の家族との関係が悪化
- お母さん以外の言うことは一切聞かない・反抗する
- 特定の支援者に会えない日は1日中不機嫌・暴れる
こういった行動は、親や家族にとって精神的にも体力的にもかなりの負担になります。
特に「この人じゃなきゃダメ」が家族内にあると、役割分担が難しくなったり、親の体調不良時に生活が回らなくなったりするリスクも。
学校・保育園・学童でのケース
- 担任の先生にべったりで、クラス運営に支障が出る
- 気に入った友だちと他の子が話していると怒る、泣く
- 「あの子がいないから学校に行かない」と登校拒否に発展する
教育現場では、複数の子どもたちとのバランスを取る必要があるため、特定の子に深く依存されると困ってしまうケースもあります。
それでも、無理に引き離そうとすると逆効果になることもあるので、対応には繊細さが求められます。
ストーカー化・過干渉につながる危険性も?
これは思春期以降や成人後によく見られる傾向ですが、執着が恋愛感情や強い好意と結びついたとき、“ストーカー的な行動”になってしまうケースもあります。
たとえば…
- 好きな人のSNSを何度もチェックし、メッセージを何十件も送る
- 相手の行動を監視したり、突然訪問したりする
- 相手に距離を取られると「嫌われた」「裏切られた」と感じ、逆に攻撃的になる
こういった行動の根底には、もちろん「好き」「そばにいたい」という純粋な気持ちがあるのですが、それをどう表現すればいいのか分からないために、周囲が怖がったり、距離を置かれてしまうことも。
本人に悪気がなくても、相手が「怖い」「負担だ」と感じた時点で“迷惑行為”になってしまう——ここがとても難しいポイントなんですよね。
また、保護者や支援者に対しても、「LINEの返信が来ないと怒る」「すぐに不安になって連絡が止まらない」といった“過干渉的なコミュニケーション”が続くこともあります。
これらの行動を見て「困った子」「わがまま」と判断してしまうのではなく、「この人との関係に全力で向き合っているんだな」「不安が強くなってるんだな」と心のサインとして捉える視点が大切です。
まとめ:リスクの裏には“助けてほしい気持ち”がある
- 執着が強まると、本人の心が疲弊し、2次障害につながるリスクが高まる
- 家庭や学校での関係性にも影響が出やすく、周囲も困ってしまうことがある
- 思春期以降は、好意が過干渉やストーカー行為に発展する可能性もある
でも、忘れないでください。
強い執着は、本人の「安心したい」「関わっていたい」という純粋な気持ちの裏返しです。
困った行動のように見えても、その背景にはいつも“心のSOS”があることを、まずは理解することから始めていきましょう。
【実践支援】アスペルガーの執着に対する適切な関わり方
「この人じゃないとダメ」という強い執着。
それが続くと周囲はどうしても「困ったな…」「早くやめさせたい」と思ってしまいがちですよね。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
その執着の裏には、“安心したい”“わかってほしい”という純粋な気持ちが隠れています。
だからこそ、支援や関わり方のポイントは「やめさせる」ではなく、「安心できる状態を守りつつ、ゆっくり広げていく」ことが大事なんです。
この章では、アスペルガーの人の執着に寄り添いながら、トラブルにつながらないようにする支援のヒントを具体的に紹介していきます。
否定せずに「安心できる人」の存在を受け入れる
まず大前提として大切なのは、“執着そのものを否定しない”という姿勢です。
「そんなにくっつかないの!」「いつまでもその先生に甘えないで!」などと強く言ってしまうと、本人にとっては「安心できる存在を奪われる」ように感じてしまいます。
その結果、
- 不安や混乱が強くなる
- 感情の爆発につながる
- 信頼関係が崩れる
という悪循環に陥ることも。
むしろ、まずは「その人といると安心なんだね」「頼れる人がいるって素敵だね」と、本人の気持ちを肯定的に受け止めることがスタートラインです。
安心の土台がしっかりあるからこそ、そこから少しずつ世界を広げていける——この考え方をベースにしておくと、後の支援もうまくいきやすくなります。
徐々に関係の幅を広げるコツ(ステップ法)
とはいえ、いつまでも「その人だけ」では困る場面も出てきますよね。
だからこそ、「徐々に広げていく」アプローチが効果的です。ポイントは、無理なく・自然に・本人の安心感を保ったまま進めること。
以下のようなステップ法がオススメです。
ステップ1:「好きな人と一緒に」他者と関わる機会をつくる
たとえば、安心できる先生と一緒に違う先生の話を聞いてみたり、仲良しの友だちと一緒に別のグループに混ざってみたり。
“安心できる人を通して、新しい人に出会う”という形が、本人にとってはすごく取り組みやすいです。
ステップ2:間接的な関わりを活用する
いきなり話すのではなく、同じ活動に参加する・隣で同じものを使うなど、“そこにいるだけでOK”な関わり方から始めるのも◎。
ステップ3:少しずつ役割を変える
たとえば「その先生から話を聞く」から、「他の先生に質問してみる」へとステップアップしたり、「一緒に遊ぶ」から「少し離れて別の子と遊んでみる」など、“安心感をキープしたまま”小さな挑戦を積み重ねていくことが大切です。
執着対象を“伸びしろ”に変えるポジティブ支援
実は、「この人が好き!」「この人と一緒がいい!」という強いこだわりは、支援においてとても大きなヒントになります。
というのも、本人が強く関心を持っている相手は、学びや挑戦のモチベーションになりやすいからです。
その人を“モデル”として使う
「先生みたいに話してみたいね」「○○くんと一緒に挨拶できたらかっこいいね」など、執着対象の言動を“見本”にしてスキルを学ぶ方法です。
本人の好きな人=信頼している人なので、「あの人のようになりたい」という気持ちを自然に引き出すことができます。
好きな人との活動を“成功体験”にする
「○○先生と一緒に給食配膳をしてみよう」「○○ちゃんと一緒に図書当番をしてみよう」など、好きな人との協力を通じて“できた”経験を増やしていくのも効果的。
それが自信につながれば、次は一人で、あるいは別の人とやってみようという気持ちが育っていきます。
興味の対象を“拡張”する
たとえば、「○○先生の好きな動物」を調べることからスタートして、新しい興味や知識へとつなげる。
執着対象が「学びの起点」になるような支援は、無理なく好奇心の幅を広げられる良い方法です。
H家庭・学校・支援者間で連携すべきポイント
執着に関する支援は、一人の支援者や家族だけでは難しいケースが多いです。
だからこそ、家庭・学校・福祉機関など、関わる人たち全員での“情報共有と足並みを揃えた対応”がとても大切になります。
対応の一貫性を保つ
たとえば家庭では受け入れていても、学校では強制的に引き離している……というような対応のズレがあると、本人は混乱してしまいます。
「安心していい人は誰なのか?」「どんな行動ならOKなのか?」が明確になるよう、支援チームで方針を共有しておくことが大切です。
定期的な話し合い・支援会議の実施
家庭での様子、学校での様子、それぞれで見えている行動が違うこともよくあります。
定期的に情報交換をする機会を設けて、支援の方向性をすり合わせていくことが、本人の安心と成長に直結します。
“安心できる関係マップ”を共有しておく
どの先生・友だち・家族なら安心できるのか?を簡単な図にして共有しておくと、異動やクラス替えなどのタイミングでもスムーズに対応できます。
まとめ:無理に変えようとせず、“広げる”視点を持つことが大切
- 執着は本人の安心の証。まずは否定せず受け入れることがスタート
- 少しずつ関係を広げていく“ステップ法”が有効
- 好きな人との関わりを“伸びしろ”に変える工夫がポイント
- 支援者同士の連携が、本人の不安を和らげる土台になる
大切なのは、「執着をやめさせよう」と思うのではなく、“この気持ちをどう活かしていけるか?”という前向きな視点で関わること。
執着が悪いものだと思わずに、その奥にある“安心したい気持ち”を大事にしながら、ゆっくりと人間関係の幅を広げていけるサポートを心がけましょう。
【年代別】「この人しかダメ」への関わり方・ケーススタディ
「この人じゃなきゃダメ!」という強い執着は、年齢や発達段階によって現れ方や対応の仕方が変わってきます。
幼児期は先生への甘えに見えたり、小学生では「親友とのトラブル」に発展したり、思春期以降は恋愛や職場での“すれ違い”につながることも。
ここでは、年代ごとのよくあるケースを取り上げながら、それぞれの関わり方のポイントを解説していきます。
幼児:先生にしか懐かない子への接し方
まずよくあるのが、「担任の先生にしか心を開かない」タイプの執着です。
園の先生にべったりで、他の先生が声をかけても無視したり、親と離れる時に泣いていても、担任が現れると一瞬で笑顔になる……なんて経験、保育園・幼稚園ではよく見かけますよね。
この時期の子どもたちはまだ「安心できる人との関係」にすごく敏感で、“この先生だけは特別!”と感じると、そこに強く依存することがあります。
ただし、この行動を無理に引き離そうとしたり、「他の先生とも仲良くしなさい」と押しつけてしまうのは逆効果。
対応のポイントは…
- 「○○先生がいるから園に行けてる」ことをまずは肯定的にとらえる
- 担任の先生と一緒に、“他の先生との橋渡し”になる時間を作る
- たとえば「○○先生と手をつないで、△△先生のところに行こう」など、段階的に関係を広げるサポートが有効です
また、「○○先生がいない日はお休みしたい」と言う子には、「○○先生がいない日も頑張れたらすごいね」と“できた”を見逃さずにほめることも大切。
安心できる人がいることは、決して悪いことじゃありません。
その関係を活かして、少しずつ人との関わりの幅を広げていけるといいですね。
小中学生:「親友への執着」が強すぎるときの対応
小学校・中学校に入ると、“親友”という存在が特別になってくる時期。このタイミングでよくあるのが、「この子じゃなきゃイヤ!」「親友が他の子と話してると怒る」といった対友人への強い執着です。
アスペルガーの特性がある子は、人間関係の複雑さに戸惑いやすく、「仲良し=いつも一緒にいなきゃいけない」という考え方に陥りやすいんですね。
その結果、
- 友だちを“独占”しようとする
- 他の友だちと話していると嫉妬する
- 無視されたと感じてパニックになる
など、本人も苦しく、周囲も困ってしまう状況が起こりやすくなります。
この時期の支援ポイントは…
- 「親友=いつも一緒にいなくてもいい存在」という関係の幅を教えること
- ロールプレイやソーシャルストーリーを使って、「別の子と話しても大丈夫」「それは裏切りじゃない」といった対人ルールを学ぶのも効果的です
- 一人遊びや複数人遊びの“中間ゾーン”を練習できるよう、遊び方の工夫やグループ活動のサポートもおすすめです
また、執着の対象になっている友だち側のフォローも忘れずに。
「なんでそんなにしつこくされるの?」と戸惑っていることも多いので、本人の特性を説明したり、休憩できる時間や空間を確保する配慮も大切です。
高校・大学生:恋愛トラブルを防ぐためにできること
思春期以降は、「恋愛」に対する興味や感情が強くなる一方で、アスペルガーの人たちにとっては、相手との“心の距離感”をうまくつかむことが難しい時期でもあります。
この時期によくあるのが、
- 好きな人に毎日何通もLINEを送る
- 拒否されても関わろうとしてしまう
- ちょっと優しくされただけで「付き合ってる」と誤解してしまう
といった“恋愛のすれ違い”や“トラブル”に発展する行動です。
恋愛に関する支援のポイントは…
- 「気持ちの伝え方」「相手の気持ちの変化」などを具体的に学ぶ機会をつくる
- 恋愛マンガやドラマなどを例に、「現実の恋愛とフィクションの違い」について話すのも有効です
- SNSのマナーや、やりとりの頻度などを一緒に確認・整理することも大切
また、「相手が嫌がっていることに気づけない」という特性もあるため、拒否のサインや境界線の感覚を明確に伝える練習が必要です。
恋愛は悪いことじゃない。でも、適切な関わり方を学ぶ機会が不足しているだけ。
そんなスタンスで、“教えることを恥ずかしがらずに行う”ことが、この年代ではとても大切になってきます。
社会人:職場での依存や誤解への対処法
社会に出ると、執着の形はまた少し変わってきます。
たとえば、
- 特定の上司にだけ報告する・相談する
- 気に入った先輩に“べったり”になってしまう
- 他の同僚と関わろうとしない・話さない
といったケースがあり、職場では“偏った関係性”が誤解を招きやすいんです。
また、同僚や上司のちょっとした態度や言葉を「嫌われた」「怒られた」と受け取り、感情が不安定になることもあります。
対応のポイントとしては…
- 「職場での人間関係=安心できる人がいることは良いこと」と捉えつつ、組織の中での関わり方を具体的に教えることが大切です
- 「誰に相談するべきか」「報告はどの範囲にするか」などをチェックリスト化する支援も有効
- 業務ロールの整理や、“この人に偏りすぎない仕組みづくり”(複数人で関わる体制など)もポイントです
また、職場の理解も欠かせません。
「〇〇さんがいないと落ち着かないようです」「こういう時にはこの対応が有効です」と事前に共有することで、トラブルを未然に防げるケースもあります。
まとめ:年齢とともに「執着」の形は変わる。だからこそ“成長に合わせた関わり”が大事
- 幼児期:安心できる先生を“基地”にして、関係の輪を少しずつ広げよう
- 小中学生:友だちとの距離感や“親友”の意味を一緒に整理しよう
- 高校・大学生:恋愛のトラブルを防ぐための“対人スキル”の学びが必要
- 社会人:職場でのバランスの取れた人間関係の作り方を具体的にサポート
「この人しかダメ」という気持ちは、どの年代でも“安心したい”という心の表れです。
それを責めるのではなく、どうやって成長につなげていくか。
それぞれのステージに合った関わり方ができると、本人の安心と自信が少しずつ育っていきますよ。
【支援者・保護者向け】アスペルガーの「執着」を理解するヒント
「うちの子、どうしてあの人にばかり執着するの?」
「他の人とも関われたらいいのに…」
そんなふうに悩んでいる保護者や支援者の方、多いですよね。
たしかに、執着が強くなるとトラブルにつながったり、関係がこじれてしまったりと困る場面もあります。
でも実は、「執着」って必ずしも悪いものではないんです。
ここでは、保護者や支援者が知っておくとラクになる“執着との向き合い方”のヒントをお届けします。
ちょっとした視点の切り替えで、関わり方がグンと変わるかもしれませんよ。
「執着」は悪ではない!強い感情の現れと受け止める
まず知っておいてほしいのは、「執着=困った行動」「やめさせるべきこと」ではないということ。
アスペルガー(ASD)の人は、対人関係や感情のコントロールが難しく、安心できる人やものに強くこだわることで、不安やストレスを乗り越えようとしていることがよくあります。
つまり、執着という行動の裏には、こんな気持ちが隠れているんです。
- 「この人といると安心する」
- 「この人なら自分のことをわかってくれる」
- 「誰でもいいわけじゃない、特別な人なんだ」
これは言い換えると、“他者とのつながりをちゃんと感じている”という証拠でもあるんですね。
だから、まずは「この人が好きなんだね」「安心するんだね」と本人の気持ちをしっかり受け止めてあげることが、支援の第一歩になります。
無理にやめさせず“活かす”視点が大事
執着を「やめさせよう」とすると、本人にとっては“安心のよりどころ”を奪われるように感じてしまい、不安や混乱を強める原因になります。
大事なのは、“どうしたらやめさせられるか”ではなく、“どう活かせるか”という視点に切り替えること。
たとえば…
好きな人を“学びのきっかけ”にする
その人が好きなことを調べてみたり、好きな人と一緒に新しい活動にチャレンジしてみたりすることで、“好き”を起点に興味の世界を広げることができます。
好きな相手の真似をして社会的スキルを学ぶ
「○○先生みたいに丁寧に話せたね」「○○くんと一緒に順番を守れたね」など、“憧れ”をうまく使って社会性を育てることもできます。
強いこだわりを“ルーティン”に取り入れる
「この人と話してから登校する」「この人とあいさつする」といった“執着を軸にした日課”を取り入れることで、本人にとっての安心が広がり、他の活動への自信にもつながることがあります。
このように、執着をうまく支援に活かせば、それは“伸びしろ”にも変わっていくんです。
本人の安心と尊重を守りながら支援するには
支援や子育ての現場では、「これ以上こだわらせたくない」「他の人とも関わらせたい」という気持ちが先に立つこともあるかもしれません。
でも、そんなときこそ立ち返ってほしいのが、「本人の安心感や尊厳をちゃんと守れているか?」という視点です。
強い執着がある子は、他の人との関係づくりがうまくいかなかった経験があったり、自信を失っていることが多いです。
だからこそ、
- 「誰にでも同じように関われなくていい」
- 「安心できる相手がいるだけでも、すごいことなんだ」
というふうに、“今できていること”に目を向けて支援することが大切です。
また、無理に行動を変えさせようとすると、「自分はおかしいのかな」「ダメなんだ」と自己肯定感を下げてしまう原因にもなります。
だからこそ、
- 小さな成功体験を積み重ねる支援
- 本人のペースに合わせて、ゆっくり関係性を広げていく関わり方
を心がけていくことが、結果的に一番の近道になることもあるんです。
まとめ:執着は「関わろうとする力」でもある
- 執着は悪ではなく、安心を得たい気持ちや“関わりたい”という前向きな感情のあらわれ
- やめさせるのではなく、“伸びしろ”として支援に活かす視点が大切
- 本人の安心と尊厳を守りながら、ペースを尊重した支援を心がけよう
執着が強い子を見て、「将来大丈夫かな?」と心配になることもあるかもしれません。
でも、その気持ちは、「この人と一緒にいたい」「理解してほしい」という、人とつながろうとする力の裏返しです。
その力をつぶさず、あたたかく見守りながら少しずつ広げていくことが、本人の世界を広げる一番の支援になります。
【Q&A】よくある悩みとその対処法|専門家がやさしく回答
「執着が強くて困ってます…」「どうしたら距離をとってくれるの?」
そんなふうに悩む保護者や支援者の方の声はとても多いです。
ここでは、実際によくある5つの相談内容について、発達特性をふまえたやさしい視点での対応方法をQ&A形式でまとめました。
Q1. 「やめるように言っても聞かない…どうすれば?」
A. 無理にやめさせるのではなく、「代わりの安心」をつくることが大切です。
アスペルガーの人にとって執着は、“安心を得るための行動”であることが多いです。
なので、単に「やめなさい」「しつこいよ」と言っても、それは“安心の場所を取り上げる”行為にしか聞こえません。
こうした場合には、まずは本人の気持ちをしっかり受け止めた上で、
- 「その人のことが好きなんだね」
- 「一緒にいると安心するんだよね」
と共感の言葉を伝えた上で、「じゃあ、こんなときはどうしようか?」と一緒に考える流れに変えるのがポイント。
また、執着対象の代わりになる“安心できる物”や“活動”を見つけるのも効果的です。
たとえば、「○○先生がいない日は、このぬいぐるみと一緒にがんばる」など、安心の「置き換え」や「緩衝材」を用意することで落ち着くケースもありますよ。
Q2. 「他の人と関われるようになってほしい」場合の対策
A. 一気に広げるのではなく、“安心を保ちながらちょっとだけ広げる”のがコツです。
たしかに「この人としか話さない」状態がずっと続くと、関係性が偏ってしまいがちですよね。
でも、ここで無理やり「いろんな人と仲良くしなさい」と言っても、本人にとってはプレッシャーが大きく、逆効果になりやすいです。
おすすめなのは、次のような“関係の輪を少しずつ広げるステップ”です。
- 「好きな人と一緒に他の人と関わる」場面を作る
→ 例:○○ちゃんと一緒に別のグループに参加する - “見る・聞く・そばにいる”といった間接的関わりからスタートする
→ 例:隣で同じ絵本を読む、同じゲームを別々にやる - 「関わる人」を1人増やすごとに“できた!”をしっかり言葉にして伝える
→ 「△△先生とも少し話せたね!すごいね!」
安心があるからこそチャレンジできる——この考え方を大切に、少しずつステップアップしていけると理想的です。
Q3. 「離れた瞬間にパニックになる」の対処法とは?
A. 離れる前の“予告”と、離れた後の“フォロー”をセットで行いましょう。
急に大好きな人がいなくなったり、何の前触れもなく距離ができると、アスペルガーの人は強い不安を感じてパニックになりやすいです。
そのため、「離れる前の段取り」がとても重要になります。
- 事前に予定を伝える(タイマー・絵カードなどで視覚的に)
→ 「あと5分で○○先生帰るよ」と知らせておく - 離れた後に再会できる約束をする
→ 「○○先生は明日また来るよ」「終わったらお手紙を書こうね」 - 「大丈夫だったね」を一緒に振り返る
→ 落ち着いた後に「パニックになったけど、少しがんばれたね」と肯定的に声かけ
「離れる」=「もう会えない」「捨てられる」と感じてしまう場合もあるので、そこに安心感を補う工夫がとても大切です。
Q4. 「恋愛と執着の違いがわからない」時の支援ポイント
A. 感情の整理や“相手の気持ち”の理解をサポートすることが大切です。
アスペルガーの人は、「好き」という気持ちの強弱や、相手の感情の変化を読み取るのが苦手な傾向があります。
そのため、
- 優しくされた=付き合っている
- LINEを返してくれない=嫌われた
- 一緒にいたい=ずっと一緒じゃなきゃダメ
といった極端な認識になりやすいのです。
この場合、支援のポイントとしては、
- 恋愛と友情の違いを図や会話で整理する
- “相手の気持ち”が変わることもある、と伝える
- フィクションと現実の違いを具体的に伝える(恋愛漫画やドラマの事例も活用)
また、本人がどう感じているか、どこが混乱しているかを丁寧に聴く姿勢も欠かせません。
一人で抱え込ませず、「一緒に考えよう」というスタンスで寄り添うことが、心の整理を助けてくれます。
Q5. 「親以外に心を開かない…将来が心配」という声に応える
A. 今は“親という絶対的な安心”が必要な時期だと考えてOKです。
「学校でも話さない」「親としか外出しない」……そんな状況が続くと、「このまま社会に出て大丈夫かな?」と不安になりますよね。
でも、まず大切なのは“今、親との関係が築けている”という事実を大事にすること。
- 親という“安心の基地”があるからこそ、少しずつ外に出ていける準備ができる
- 「心を開ける人が1人いる」こと自体がすごいこと
- 社会に出る準備は、今すぐじゃなくてもいい
焦らず、家庭でできる小さな社会経験(買い物、あいさつ、地域の人との関わり)から積み重ねていくのも立派な支援です。
また、支援者や学校と連携して「親以外にも安心できる大人」を少しずつ増やしていくことも、時間をかけて取り組めば大丈夫。
「将来が不安」=「今この子を大切に思っている証拠」。
その気持ちを出発点に、本人のペースを尊重した支援を心がけていきましょう。
まとめ:一人で悩まなくて大丈夫。執着には“意味”がある
- やめさせるのではなく、“気持ちの背景”を読み取ることが大事
- 安心感・信頼関係・ペースを大切にした対応が効果的
- 執着は“関わりたい”“安心したい”という前向きな気持ちのあらわれ
どんなに困っているように見えても、執着の裏には必ず「大切にしたい気持ち」や「不安を乗り越えたい気持ち」が隠れています。
その声に耳を傾け、一緒に少しずつ歩んでいける関係性を作ることが、何よりの支援につながります。
【さいごに】アスペルガーの“執着”を深く理解して支援につなげよう
ここまで、「この人じゃなきゃダメ!」と強く執着してしまうアスペルガー(ASD)の特性について、さまざまな角度からお話してきました。
「執着」という言葉には、どこかネガティブなイメージがつきまといがちですが、実はその行動の背景には、とても繊細で純粋な“心の動き”が隠れています。
「困った行動」ではなく「安心を求めるサイン」
まず大事なのは、執着を単なる“困った行動”として見るのではなく、安心を得ようとする“心のサイン”として受け止める視点を持つことです。
アスペルガーの人にとって、人と関わること自体がすでにハードルが高く、気を遣う大きなストレスになることもあります。
そんな中で、ようやく「この人なら大丈夫」と思える存在ができたとしたら、それは本人にとって“安心のよりどころ”であり、かけがえのない関係なんです。
やめさせるのではなく、“広げる”支援へ
多くの保護者や支援者がつまずくのが、「どうしたらこの執着をやめさせられるのか?」という視点にとらわれてしまうこと。
でも、執着は簡単に手放せるものではありませんし、無理にやめさせようとすると、かえって本人の不安や混乱を強めてしまうこともあります。
だからこそ、支援の方向性としては、「今の安心を守りながら、少しずつ関係を広げていく」ことが大切。
- 好きな人と一緒に他の人に関わる
- 関係を“複数化”する練習を少しずつ進める
- 好きな人をモデルに社会性を育てていく
こんなふうに、執着の“伸びしろ”をうまく支援に活かしていくことで、無理なく人間関係の幅を広げることができます。
支援者・家族が“つながりの土台”になる
そしてもう一つ忘れてはいけないのが、支援に関わる大人たちの存在そのものが、本人にとっての安心のベースになるということです。
「○○先生だけじゃなくて、△△先生も大丈夫だった」
「お母さん以外にも信頼できる人が増えてきた」
そんな小さな積み重ねが、やがて本人の“社会での安心の枠”を広げてくれます。
特に、家庭・学校・支援機関など、複数の場で関わる人たちが連携し、「一貫性のあるあたたかい対応」を続けることが、本人にとっての大きな支えになります。
「この人じゃなきゃダメ」から、「いろんな人とも大丈夫」に変わる日は来る
執着が強いと、「このままで大丈夫かな?」「この子、人間関係うまく築けるんだろうか」と不安になることもあるかもしれません。
でも、焦らなくて大丈夫です。
“好き”という気持ちも、“安心したい”という気持ちも、すべて人とつながろうとする力の一部。
その気持ちを大切にしながら、ゆっくりと見守っていくことで、必ず本人なりのペースで人との距離の取り方が身についていきます。
まとめポイント
- 執着は悪いことではなく、“安心したい”という気持ちのあらわれ
- 無理にやめさせるのではなく、“活かして広げる”視点が大切
- 小さな成功体験を積み重ねながら、自信と安心を育てていこう
- 支援者・保護者が連携して、一貫した安心感のある関わりを心がけよう
「この人しかダメ」から「他の人とも話せたよ!」に変わるまでには、時間がかかるかもしれません。
でも、そのひとつひとつのステップを大切にしながら、本人の世界を少しずつ広げていく支援を、みんなでつくっていきましょう。
以上【この人じゃないとダメ!はなぜ起こる?アスペルガーの執着の正体を徹底解説】でした
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